新見市内の方々の庭先は、一年を通して彩り豊かに草木や果実が実っている。

春は桜やチューリップ、そしてイチゴ。夏はヒマワリ、秋は紅葉と柿など。それらが市内の景色の一部となって季節の移ろいが楽しい日常の一コマだ。移住してきた当初から、この豊かさが日常なんて贅沢な毎日！自分もいつかこんな暮らしが出来たらいいなと憧れにもなっていた。

東京での暮らしは、インフラや生活用品、食品など全てにおいて依存度が高かった。「大型台風が来るぞ！備えを万全に」とＴＶが煽れば、たちまちコンビニや量販店から食品が消える。いつも溢れんばかりに陳列された商品が空になる様は何度見ても慣れない。また桜が咲けば、名所はイモ洗い状態。ゆっくり鑑賞するなんて優雅な時間なんて無かったが、それが私の普通だった。

そんな暮らしに限界を感じていた頃、世界を襲った感染症によって公園に立ち入り禁止のテープが張り巡らされ、なんでも口に入れたがる１歳になったばかりの子どもを連れての買い物は、不安が付き纏った。

そんな経緯もあって、新見のお住いの先輩方の生活ぶりを覗かせて貰った際に、資源豊かで自活できる営みに、クリエイティブさと暮らしの未来を感じたのかもしれない。

先日も、そろそろ柚子の季節だから採りにおいで！と交流のあるご老人にお声がけ頂き何人かでお邪魔した。

聞けば、以前は柚子の出荷もされていたが、今は高齢で辞められたそうだ。さらにお一人住まいなので、沢山あっても使いきれないからと分けてくださっている。

大きく育った柚子の木々に黄色い実が沢山なっていた。秋の絶景だ。収穫前から辺り漂う柚子のいい香りに口角が上がり、気分も軽やかになった。さらに「好きなだけ取っていってくれていいよ」と太っ腹なお声がけを真に受け、かご2つが一杯になるまで収穫させて貰った。一緒に行った仲間と分けても、持ち運ぶには結構な力が必要だった。

家に帰って、柚子の皮を使って柚子胡椒、大根の漬物、絞って自家製ポン酢など様々に楽しんでいる。皮や果汁は冷凍保存もできるので、お正月含め冬に大活躍してくれそうだ。

またフランスで柚子が流行しているそうで、ソースやドレッシング、お菓子にお茶など多岐にわたって重宝されているらしい。昨今では、フランス人の国民食ともいえるマカロンやバターにも柚子が使われ、ここまでくると日常に欠かせない食材の一つになっていると言っていいかもしれない。

このように国内外で需要が高まる一方で、今回お声がけくださった農家さんのように高齢化による問題を垣間見た。

若者の担い手不足に、新規就農には大きな初期費用がかるのに対し、収入が少ないなどの理由を聞く。しかし農業のメリットを収入だけにフォーカスせず、アピールできないだろうか。

例えば収入は多くないが、「おいしい食材を自活でき」、田舎暮らしは家賃も抑えられるので「生活コストも少なくて済む」こと。あるいは、時間の使い方や経営方針など全て自分で決めることができる「裁量権の大きさ」。実際に半農半Xなどライフスタイルに合わせた自由な働き方をしている従事者も市内にもいる。そんなメリットも一緒に伝えられないだろうか。

「知見もないよそ者が、分かったように何を言う」と耳の痛い声も聞こえてきそうだが、あえて話題を出したのは、新見のみならず日本の社会課題である以上、農業従事者や専門家だけでなく、誰でもが考えるべき事案だと思うからだ。だからこそ、子どもでも、よそ者でも、もっとみんなで一緒に語り、考え、トライしてみることの必要性を感じている。

柚子を頂くという身近な出来事を通じて、新見で日本の社会課題に触れ、危機意識が高まった秋でした。